JESMA学院長・草野由美子氏が語る、持続可能な社会を支える「触れるケア」の可能性
エステティックの真の意味とは
エステティック業界は、従来の「外見の美しさ」を追求するイメージから、より本質的な価値へと大きく転換している。ゆうプランド株式会社代表取締役の草野由美子氏は、この変化の最前線に立つ人物の一人だ。
「エステティックというと一般的には女性が美を求めて通うイメージが強いかもしれません。しかし本質的なところは、内面を整えることで外面を美しくするということです」と草野氏は語る。エステティックの基礎教育では、外面的ケア、内面的ケア、精神的ケアの三つを統合した「三面美容」が重要な概念として位置づけられている。
業界の課題と教育の重要性
草野氏が1987年にエステティシャンとしてキャリアをスタートした当時、専門学校にエステティック科は存在せず、業界団体の通信教育が主流だった。現在でもエステティシャンは国家資格ではないため、「今日からエステティシャンと名乗れてしまう」現実がある。
この状況が生み出すのは、エステティシャン間の技術や知識レベルの大きな差だ。しっかりと教育を受けた者は三面美容の理念を理解し、単なる外面的なケアを超えた総合的なアプローチを提供できる。一方、外面的なケアのみに焦点を当てた施術者は、美容医療との境界を曖昧にし、無理な結果を求めがちになる傾向がある。
経営教育への転換点
草野氏が経営教育に力を入れるようになったきっかけは、自身の独立経験にある。「勤めていた時は集客について経験していましたが、独立した時にその部分が抜け落ちていました」と振り返る。7店舗を経営する先輩からのアドバイスで経営学を学び始めた草野氏は、「エステティシャンにも知識と技術が必要ですが、経営にも経営の知識と技術が必要」だと実感した。
この経験を基に、2020年にエステティックサロン経営講座を開講し、2023年にはJESMA(日本エステティックサロン経営学院)オンラインスクールを設立。小規模サロン向けの経営教育に注力している。
未病ケアとしての本質的な価値
現代のエステティックが注目されているのは、その「未病ケア」としての本質的な機能だ。肌荒れやむくみ、冷えといった症状は、単なる美容上の悩みではなく、内臓機能の低下や自律神経の乱れを示す「皮膚反射」である場合も多い。
エステティックの施術には、皮膚や筋肉への直接的なアプローチを通じて副交感神経を優位にし、自律神経のバランスを整える効果があるとされる。これは脳や内臓に働きかけ、心身の緊張を緩める作用も期待できる。
心のケアと対話の力
JESMAでは、来談者中心療法を応用したカウンセリング技法の教育にも力を入れている。傾聴・受容・共感の姿勢で行う対話は、顧客の自己開示や感情の浄化を促し、内面からの気づきと癒しのプロセスを支援する。
企業におけるストレスチェック制度の義務化や、アブセンティーズム(欠勤)、プレゼンティーイズム(出勤していてもパフォーマンスが低下している状態)といった課題が顕在化する中、エステティックサロンは「病気になる前」の段階でケアできる存在として、健康経営の分野でも注目を集めている。
信頼性向上への制度化
公的保険の対象外であるエステティックサービスだからこそ、信頼性と安全性の可視化は重要だ。2007年に経済産業省の指導のもと制定された「エステティックサロン認証制度」に続き、2026年8月には「エステティックJIS(日本産業規格)」の正式発表が予定されている。
草野氏は、「エステティックJISのマークがついていると、運営上も経理上も財務上も、エステティシャンの教育レベルも、ある程度基準を満たしているサロンだということがお客様に見える状態になります」と説明する。これは保険外サービス領域で初めて明文化される品質および運営管理基準となる。
持続可能な社会への貢献
エステティックの価値は、人が自らの力で健康を維持しようとする営みを支える点にもある。これは医療や介護に過度に依存しない社会の構築という意味で、サステナブルな未来への貢献でもある。
外見の美しさを整える場であると同時に、健康の土台を支え、社会的孤立を防ぎ、自己肯定感を育む場として、エステティックサロンの役割は拡大し続けている。心身の健やかさと人とのつながりを支える「皮膚からのアプローチ」の力が、これからの社会でより一層必要とされていくことは間違いない。
ゆうプランド株式会社では、エステティック業を中心としたサロンの企業研修、オーナー向けコンサルティング、小規模サロン向けの経営スクールをオンラインで提供している。