PROFILE
慶應義塾大学医学部卒業、同大学関連病院で研修後、消化器内科に帰室。米国ペンシルバニア大学に消化器内科博士研究員として留学。帰国後、東海大学医学部付属東京病院講師、客員准教授(現職)、国立病院機構東京医療センター副医長・診療科長、旗の台病院 副院長・内科診療部長を経て2024年10月 用賀きくち内科 肝臓・内視鏡クリニック院長として現在に至る。カゴメCMなどメディア出演多数。
クリニックを開業された、きっかけは何だったのでしょうか。
境界に根を張るクリニックを目指して──2023年、家族旅行で訪れた沖縄。カヌーで進んだ先に広がっていたのは、静かに力強く根を張るマングローブ林でした。ガイドの方のお話を通して、マングローブは淡水と海水が交じり合う『汽水域』という特殊な環境でしか生きられず、二酸化炭素の吸収力に優れ、多くの生き物を育み、災害時には防波堤の役割を果たす。まさに、地球環境・生態系・人間社会に深く関わる「境界の象徴」とも言える存在だと知りました。
1年後、母校である慶應義塾大学の卒業25周年記念で卒業式に出席した際、伊藤公平塾長が、そのマングローブを『緩衝地帯(バッファーゾーン)』と例えられ、『環境問題や国際的な対立において、こうした”境界”の重要性に目を向けるべきだ』と話されました。その瞬間、私の中で、医療の世界にも全く同じ構造がある、と感じました。
健康診断と、病気になってからの保険診療との間には、十分に対応が届かない“隙間”が存在します。健診で異常を指摘されても、病気と診断されなければ放置されている現状があります。私たちのクリニックは、まさにその”医療のバッファーゾーン”にしっかりと根を張る存在でありたい。沖縄で見たマングローブのように、異なる領域の境界に立ち、力強く地域の皆様の健康を支える場所でありたい。その想いが、開業を決意させた最大の理由です。
クリニックの強みや特徴、患者様のために工夫されていることを教えてください。
当院の最大の強みは、総合内科・消化器病・肝臓・内視鏡・抗加齢といった専門医資格を私たち夫婦が共にもつ“両輪駆動”である点です。一般内科から専門的な内視鏡・肝臓診療まで幅広く対応し、男性・女性医師が在籍することで、患者様が安心してご相談いただける体制を整えています。また、用賀駅徒歩3分という利便性を活かし、苦痛の少ない内視鏡検査と快適なマッサージチェアを配備した個室や24時間対応のWEB予約といった、患者様に便利で安心して受診いただけるような環境を整えています。
大切にしている理念は、医師と患者のニューノーマルな関係です。医師が一方的に説明し選択肢を提示するような関係性ではなく、患者様ご自身が医療に主体的に参加できる”対等”な関係こそが当クリニックが追及する理想像です。そのために、医師と患者様の間にある理解の溝や心理的な距離感、いわば“バッファー”を埋め、対話の中から”価値観を共有する医療“を目指しています。その一つに、当院が独自で”健幸教室“という最新の知見や日常生活の注意点を伝える場を設け、診療時間以外でも患者様に寄り添う医療を提供しています。
そうした“対話”を促すために、専門的な情報を分かりやすぐ”見える化“することに力を入れています。例えば、迅速な採血システム(約10分)や、筋肉量や体脂肪のバランスを測定できる『InBody』、肝臓の脂肪量や硬さを数値化できる『FibroScan』を導入し、ご自身の体の状態を患者様と一緒に確認しながら方針を考えていきます。
次に、先生ご自身についてお伺いします。医師を目指されたきっかけや、これまでの歩みについて教えてください。
医師を志したのは、慶應義塾幼稚舎(小学校)5年生のときに祖父を亡くしたことがきっかけでした。子ども心に大きなショックを受け、医療者が身近にいない環境で育ちながら『自分が医師になって家族を助けたい』と強く思ったのです。
学生時代は、慶應義塾に根付く“文武両道”の精神のもと、ラグビー、サッカー、水泳、ゴルフなど、とにかくあらゆるスポーツに打ち込みましたね。医師は体が資本ですから、この頃に体力をつけてきたおかげで、今日まで元気に診療を続けられているのだと感じ両親に感謝しています。
医者になった以上“全身を管理したい”と考えるようになり、多くの臓器を担当する消化器内科を選択しました。さらにその体の中心的な役割を担う肝臓に関する専門知識が不可欠だと考え、母校の大学の消化器内科肝臓グループに籍を置きました。大学病院や関連病院で臨床経験を積む中で、特に肝臓領域の奥深さに惹かれ、専門性を高めていきました。
その後、ペンシルベニア大学に約2年間留学する機会にも恵まれ、世界最先端の知見に触れるとともに、患者様や医療との向き合い方を改めて見つめ直す貴重な時間となりました。帰国後は、東海大学医学部付属東京病院や東京医療センターなどでさらに経験を積み、これまでの集大成として、この用賀の地にクリニックを開業いたしました。
多くの学会や専門医の取得、学会役員を務めてまいりましたが、これまでの取り組みは一見バラバラな部分も感じました。しかしある瞬間を境に「これだったのか」と繋がり始める、人生はジグゾーパズルのように思えます。集合体同士が繋がり、一枚の絵に向かっていく、離れていた知識が繋がる瞬間の喜びが今の原動力です。当院はメタボとロコモを一体化して管理・予防できる日本初のクリニックを目指します。様々な土壌に根を張ったマングローブの姿を、ジグゾーパズルの完成形として描いていきたいです。
今後の展望についてお聞かせください。
これまでの経験と私たちの強みを最大限に活かし、用賀の皆様に『かかりつけ医』として頼られる存在になることを目指します。特に、専門である消化器がんの早期発見・治療はもちろんのこと、病気にならないための予防医療に力を入れ、皆様の未来の健康管理をお手伝いしていきたいです。
そして、今後特に力を入れていきたいのが『アートと医療の融合』の促進です。これは、私自身が日々の診療で既に実践し、その重要性を実感していることでもあります。
命を扱う現場は常にストレスに晒されますが、その中で的確な判断を下し続けるには、心のバランス感覚が何よりも大切です。私自身、患者様が診察室に入ってこられる際の仕草や表情から状態を感じ取る『直感』を重視しており、その感覚は、アート作品と向き合い、自分の心がどう動かされるのかを感じ取ることと深く通じています。アートに触れることで、医療者は自身の心をニュートラルに保ち、感性を豊かにすることができます。そうして得られた心の安定や研ぎ澄まされた感覚は、必ず患者様へのより良い医療として還元されるはずです。この好循環をクリニックの診療の中でさらに発展させ、アートの力を借りて新しい医療の未来を切り開いていきたいですね」
最後に、患者様へのメッセージー読者の皆様へメッセージをお願いします。
私たちは、専門医による質の高い医療を、もっと身近に提供したいという想いでこのクリニックを開きました。お体のことで少しでも不安や気になることがあれば、どんな些細なことでも構いません。どうぞお気軽に私たちを頼ってください。皆様の健康を全力でサポートさせていただきます。
■取材協力
用賀きくち内科肝臓・内視鏡クリニック
https://www.youga-naika.com/