ストレスが多い社会の中で職域におけるメンタルヘルス対策は喫緊の課題となっています。今回はメンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作るべく、企業向けのコンサルティングや研修会の開催をしている、合同会社活躍研究所さまに話を伺いました。メンタル不調による休職後に「早く」職場に復帰することの価値を改めて問い直すとともに、復職支援におけるポイントを教えていただきました。
「早く」職場に復帰することについて、どのように考えていますか
日々、メンタルヘルス不調者と関わる中で、休業中の方からよく聞くのが「早く戻りたい」という言葉です。そして、家族も、上司や人事労務担当者、場合よっては、治療する主治医や、復職を支援する産業保健師も、本人の早い復帰を期待しています。
本来の状態ではないものを元に戻すのは早い方がいいし、病気になって休んでいれば、早く復職することに異論はないかもしれません。しかし、私は、メンタルヘルス不調者の復職支援に携わっている中で「早く」職場に復帰することに対して、慎重にならざるを得ないとも考えています。
「早く」職場に復帰することの価値とはなんでしょうか
休職していれば当然、賃金は発生しておらず、傷病手当金などを頼ることになり、収入が減少している状態です。そして就業するということは、収入面以外にも、働き甲斐を得たり、社会的な地位を認識したり、自身の成長する機会を得たりといった面もあります。就業しない期間はそれらを得られない期間であり、「早く」職場に戻ることは、経済的なものを含めそれらの損失を最小限に食い止めることができるという価値があると考えられます。
本人以外に視点を移せば、傷病手当金をはじめとした手当や、代務にかかるコスト、本人を支援するための上司や関係者の労務コストも、本人が「早く」戻ってくれば、最小化できるということも、価値といえるのではないでしょうか。
「早く」戻ることに慎重になる理由を教えてください
メンタルヘルス不調による休職者が「早く」職場にもどる際に、トレードオフの関係にあるのが、状態の改善だと考えます。メンタルヘルス不調は、その症状や状態を視覚的に把握することが難しく、また、周囲も本人の状態を客観的に評価することは難しく、本人の自己評価に頼らざるを得ないため、判断が難しいです。
メンタルヘルス不調では、本人が自分の状態を適切に把握できていないことが多く、症状としての焦燥感が残存しているケースでは焦燥感から早期に戻りたいと考えてしまうし、好不調を繰り返す中で、最悪の時期と比較して調子は良くなったと考えてしまうこともあります。だから、適切な状態にまで、改善していないタイミングで戻ってしまうことがよくあるのです。
一方で、メンタルヘルス不調になっても、自分自身の状態を適切に把握し、好不調の波を自分の力でコントロールできる状態になれば、再発のリスクは大きく下げることができ、もともと本人がもっていた能力や才能を生かして活躍することできます。ただ、そこに至るまでには、自宅で療養し、症状をコントロールするだけでは難しいです。それ相応の準備と時間が必要なのです。
「早く」を優先するあまりに、本来到達できる状態ではない状態で復帰し、再発・再休業し、苦しい時間を増やしてしまわないでしょうか。5年後、10年後に振り返った時、自分が自分らしく活躍する時間がより多くなる選択をしてもらいたいと思います。
活躍につなげる復職支援のポイントを教えてください
メンタルヘルス不調者の復職支援においては「早く」より、状態の改善だと考えます。しかし、状態の改善をどこまで求めるかが明確になっていないことが多く、本人や周囲の「早く」という思いにひっぱられてしまいます。
私は、メンタルヘルス不調における状態の改善は、「継続的に活躍が期待できる状態」と考えています。「継続的に活躍が期待できる状態」とは、本人が自信をもって、自分自身の状態を適切に把握でき、環境や他人に左右されず、自分自身の力で自分の状態をコントロールできるといえる状態です。この状態は、とても達成困難なようにも見えるが、誰でも学んで練習すればスキルとして身に着けられるものであるし、そのためのプログラムや仕組みがあります。あとは、そこにつなげ、活用するための仕組みと支援の問題です。活躍研究所では、事業場を対象に、その仕組みづくりのサポートをしていますが、これがもっと多くの方に届けられたらと思っています。
合同会社活躍研究所
代表 野﨑 卓朗
https://kyri.co.jp/