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誹謗中傷はなぜ起きるのか
2024.08.27 Tue
一般社団法人インナークリエイティブセラピスト協会 誹謗中傷はなぜ起きるのか https://in-ct.org/

誹謗中傷はなぜ起きるのか?

パリオリンピックの素晴らしい熱戦、アスリートの熱い思いが私たちにも伝わってきました。ただその一方、ミスや負けた選手には、ネットを中心に心ないコメントや誹謗中傷のメッセージなどが多数寄せられました。応援をしていたにもかかわらず、なぜこのような事態が起きてしまうのでしょうか?

誹謗中傷が起きる主な3つの要因

(1)自己責任と謝罪を求める心理
日本では、従来、責任を曖昧にする傾向がありました。しかし、近年では「自分のことは自分で責任を持つ」という自己責任の考え方が浸透してきました。本来、自己責任とは、自分に対して用いるものです。しかし、相手に対して求めることもできます。「あなたのミスはあなたの責任」という考え方です。特に匿名性の高いネット上では、「あなたが悪い」と一方的に責め立てることもできてしまうのです。
この自己責任論が他者に向かうと、「謝らせたい」という心理につながります。ミスをしたのだから謝るのが当然だという発想です。しかし、当事者が謝罪しても、今度は「その謝り方が不十分だ」とさらに追及が続くことがあります。

(2)裏切られた心理
近年ブームとなっている「推し活」。これはアスリートやアーティスト、タレントなどを「推し」として応援するものですが、その人の活躍に自分自身を重ね、一体感や共感、さらには幸福感を得ることもできます。そして、これらの思いはさらに、信頼感や親近感・仲間意識へとつながり、相手の成功を願う期待となります。
ただ、「可愛さ余って憎さ百倍」という言葉があるように、相手が失敗をした場合には、膨らんだ期待が失望や裏切られ感へと変わります。特にスポーツは、観戦者も熱狂しやすく、ボルテージが上がる分反動も大きくなります。しぼんだエネルギーは、一気にマイナスの塊(恨みなど)となり、ミスをした特定の選手へと向かうのです。このように、期待が裏切られたと感じたとき、その感情が誹謗中傷に転じることがあります。

(3)歪んだ正義感
コロナ禍において「自粛警察」と呼ばれる行為が目立ちました。本来「お願い」に過ぎない自粛要請を「違反」と捉え、他者を攻撃する行動です。この自粛警察からは、次の2点を見出すことができます。

①マナー違反とルール違反の混同
マナーとは「相手への思いやり」から生まれるもので、守らなかったとしても罰則はありません。一方、ルールは「社会生活を行ううえでの決めごと」で、違反すると罰則が科されます。このように本来、マナーとルールは異なるものです。しかし、「場の空気を読み、皆と同じ」であることを重んじる日本人の場合、この2つの混同が多く見られます。
スポーツにおいて、ミスや負けはマナー違反でもルール違反でもありません。タレントの不祥事も、不倫・暴言など、その多くはマナー違反の範疇に過ぎませんが、それをルール違反と捉え、過剰に非難するケースが見られます。

②事実と解釈の混同
事実とは「見たまま、聞いたまま」のことで、基本的に誰にとっても同じですが、解釈は個々の受け止め方であり、人によって異なります。
例えば、競技で最後にミスが出たとき、観客のAさんは「今回のミスが次の勝利への糧になればいい」と前向きに捉えますが、Bさんは「決めていれば勝っていたはずだ」と否定的に捉えます。後者のように、事実にマイナスの解釈を加えると、それが誹謗中傷に繋がる可能性があります。このようなマイナスの解釈は「思いやりを欠く正義感」とも言えます。

思いやりを欠く正義感

私たちが物事を判断する際には、「正しさ」と「心地よさ」という2つの基準があります。生まれたばかりの赤ん坊は「心地よさ」と「心地悪さ」の感覚を持っており、この感覚に対して「正しさ」は後天的に習得するものです。成長する過程で、この2つのバランスを保ちながら大人へと成長していきますが、近年では「正しさ」だけを重視する人が増えてきました。
自己責任と同様に、正しさを自分だけでなく他者にも求めると、誹謗中傷や自粛警察のような行動が生まれます。これらの正義感は、心地よさや思いやりを欠いたものであり、自分の行動を「正しい」と信じる限り、誹謗中傷はなくならないでしょう。

反抗期の欠如

人間は生まれながらに「心地よさ」の感覚を持っていますが、それを失ってしまう原因の一つとして、「反抗期の欠如」が考えられます。子どもは親や学校から「正しいこと」を教わり、間違えると叱られますが、思春期になると「自分の好きなこと」や「興味のあること」にも意識が向くようになります。この心地よさを追求する行動は、周囲から見れば反抗的に映ることがあります。

平成、令和の時代では、反抗する子どもを見る機会が減り、皆「聞き分けのいい良い子」になっています。もちろん、良い子がダメと言っているのではありません。しかし、「心地よさ」と「正しさ」の両方を持ち合わせることが、真の大人へと成長するために重要です。

思春期に取り戻すべき「心地よさ」

誹謗中傷を行う人の中には、「正しいことをすると気持ちがいい」と語る人がいます。しかし、本来「心地よさ」と「正しさ」は異なるものです。心地よさは心の領域、そして正しさは頭(脳)の領域だからです。そして少なくとも、思春期に自分にとっての「心地よさ」を取り戻さないと、「正しさ」だけを持つ大人となってしまいます。そして、自分にとっての心地よさがピンとこない以上、相手の傷みの理解もできなくなってしまいます。
誹謗中傷がなくならない大きな要因は「思いやりに欠ける正義感」です。では、どのようにすればうまくいくのでしょうか?
1.心地よい感覚を取り戻すこと
2.相手をキチンと見ること
この2点が鍵となります。そして、これらは脳のエネルギーを維持する上でも重要です。脳のエネルギーが低下すると、怒りっぽくなり、誹謗中傷の温床にもなり得ます。具体的な内容については、次回解説します。

NEXT・・・「脳のエネルギーの低下を防ぐ」

〈執筆〉
一般社団法人インナークリエイティブセラピスト協会
代表理事 佐藤城人
https://in-ct.org/

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