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誹謗中傷の対策
2024.09.04 Wed
一般社団法人インナークリエイティブセラピスト協会 誹謗中傷の対策 https://in-ct.org/

これまで、誹謗中傷についての考察を行ってきました。まずは、誹謗中傷がなぜ起きるのか、特に「歪んだ正義感」などの要因について取り上げました。そして、脳のエネルギーと誹謗中傷、またはキレやすさの関係についても触れました。今回は、その対策に焦点を当て、「いま・ここ」に意識を向ける方法として「マインドフルネス」を考えていきます。

「いま・ここ」に意識を向けるマインドフルネス

「いま・ここ」にない状態とは、過去や未来に意識が向き、自分以外の他者や周囲の出来事に意識が向いた状態を指します。具体的には、以下のような状態です。
・過去の失敗やミスに意識が向いた状態
・まだ起きていない未来の出来事を不安視する状態
・他者を過度に心配し自分を後回しにしてしまう状態
・答えが出ない悩みについて、ぐるぐると考える状態
脳が過去や未来、周囲へと行ったり来たりするため、脳のエネルギーを消費します。結果的に「キレやすさ」や「打たれ弱さ」へとつながります。従って、これらを解消するためには、脳を「いま・ここ」に置き、エネルギーを保つことが大事です。では、マインドフルネスの方法を2つ紹介します。どちらも短い時間で取り組めるものです。日々取り組んでみてください。習慣化することが脳のエネルギーの安定化につながります。

(1)空を眺めるマインドフルネス
ベランダや窓の外を眺めて、空を見上げましょう。広がる青空や雲、夕方なら夕陽、夜間なら月や星でも大丈夫です。そして、数回深呼吸をしましょう。内向きになりがちな意識を外に向ける練習にもなります。

(2)五感を取り戻すマインドフルネス
前回、周囲の視線を過度に気にすることをお伝えしました。この場合、大切なことは「自分からも周囲を見る」ことです。結果的にお互いの視線が緩和され、気にならなくなります。五感とは「視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚」の5つです。これらの感覚を取り戻す方法です。周囲にあるものを、見て・聞いて・感じてみましょう。
①まず、視覚です。周囲を見て、心地よいと感じるものを見つけてください。その際「私は〇〇を見ている」と声に出してください。
②次に聴覚です。周囲の音に耳を傾け、心地よいと感じる音を聞き分けてください。その際「私は〇〇を聞いている」と声に出します。
③味覚・嗅覚・触覚も同じです。心地よいと感じる味や香り、肌触りを探し、その際「私は〇〇を感じている」と声に出します。

ポイント
・「私は」と自分を主語にすること。これが「自分の軸」を育てます。
・「心地よい」ものを見つけること。これが、「正しさ」オンリーの思考からの脱却につながります。

スポーツ観戦でヒートアップした際のマインドフルネス

スポーツ観戦で応援に力が入り過ぎて、握りこぶしをしたり、胃がキリキリしたりすることはありませんか?この過度な緊張状態が脳のエネルギーを消費させます。クールダウンするためのマインドフルネスです。
①目をつぶり、額に手を当てます。左右どちらの手でもOK。軽く触れる程度でOKです。
②手を当てたまま「私は今、額に手を当てている」と口に出し、意識を額に集中させます。興奮を鎮めるために深呼吸をするのもOKです。
③額に当てた手を離し、5本の指で眉の上をトントンと数回軽く叩きます。

ポイント
額には皮膚の血行を改善するツボがあります。そこに軽く触れることで緊張感を緩和させることができます。眉には「疲れ目」に効果のあるツボがあります。長時間のスポーツ観戦で目も疲れています。ケアをしてください。

被害を受けた場合

誹謗中傷を受ける側にとって大事なことは「同じ土俵に上がらない」ことです。心無い言葉に対して言い返したくなることもありますが、さらに火に油を注ぐことになります。誹謗中傷の多くは「揚げ足取り」であり、相手はあなたの発言の隙を狙っています。従って「同じ土俵に上がらない」これが鉄則です。なお、これは泣き寝入りをしろということではありません。法的な手続きが必要な場合は、粛々と行う必要があります。誹謗中傷を受ける際、どうしてもダメージを受けるのは被害者側です。そこで、まずは傷を癒す方法を紹介します。

◆蝉の抜け殻ワーク
傷ついた自分の姿はどのような状態でしょうか。蝉の幼虫が孵化して、抜け殻になった姿を見たことはありますか?
①椅子に座っている傷ついた自分の姿をイメージしてください。
②その姿を見ているもう一人の自分がいます(ここでは元の自分をA、もう一人の自分をBとします)。
③BさんはAさんの姿を眺めてください。表情や息づかい、姿勢などはどうなっていますか?
④Aさんがホッとできるような言葉をかけてください。その際、Aさんをハグしても良いです。肩や背中をさすっても良いです。手を握ったり、膝をさすったり、頭をなでたり、Aさんがホッと安心できる仕草も一緒にしてください。
⑤再度、Aさんの様子を眺めてください。表情や息づかい、姿勢などに前向きな変化が見られればOKです。もし変化が無い場合は④を再度取り組みます。
このワークのポイントは、慰めて欲しいとき、必要な言葉や仕草を的確に知っているのは自分自身ということです。また、夜間など誰もそばに居ない時間帯でもできるセルフケアという点です。
この「蝉の抜け殻」に取り組む際、ホッとする言葉は次の2つに大別できます。
①そっと一人にしておいて欲しい
②誰かそばに居て欲しい
私たちが癒されたいとき、このように2つの対処法があります。近年、副交感神経の研究から「ポリヴェーガル理論」が提唱されています。副交感神経には、背中側を走る背側迷走神経とお腹側を走る腹側迷走神経があり、それぞれの反応の仕方が異なります。
背中側が反応するときは、自分自身の軸がグラついている感覚に囚われます。従って対処法は、上記の①となります。この反対に、お腹側が反応するときは、誰かとの繋がり感が乏しい感覚になります。そのため、②の誰かにそばに居て欲しくなります。背中側かお腹側か、言葉で見分けがつかない場合は、傷ついた場面を思い出してください。その際、モヤモヤを強く感じるのは、背中側(肩やうなじ含む)ですか?それとも、お腹側(顔や首の表面、胸含む)ですか?自分の感覚を基準にして対処法を選んでください。

2つの迷走神経への対処法

◆自分の軸がグラついているときの対処法
①腎臓に手を当てる
中国医学では「腎」は成長・発達・生殖に関する働きを持ち、生命力の源と言われます。腎=腎臓ではありませんが、腎臓には血圧を調整したり、血液そのものを作り出したり、不要な老廃物を排出したいするなど、まさに生命の源と言ってもよい機能があります。そこで、弱っている腎臓に手を当て、労わる方法です。腎臓に手を当てて、その温もりを感じてください。

②深呼吸をしながら、体をゆっくりと動かす
深呼吸に合わせて体もゆっくりと動かしてください。呼吸に合わせて、体もゆっくりと動かしてください。体を動かせない場合など、首に温かいタオルを巻いて深呼吸をするのもOKです。背側迷走神経は脳から首筋を通り背中に繋がっているからです。

◆誰かにそばに居て欲しいときの対処法
①声を発する
腹側迷走神経は脳と腹を結び、その間には喉頭や咽頭を通る神経も含まれています。そのため、声を出すことで腹側迷走神経を調整することができます。落ち着けるような音や、今の気持ちを言葉にして声に出すことが、心の安定につながります。

②梅干し表情と最高の笑顔の運動をする
腹側迷走神経は顔の表側にあり、表情筋の動きに影響を受けます。梅干しを食べるときのような「すっぱい顔」をした後、鏡の前で最高の笑顔を作ってみましょう。これにより、気持ちをハッピーに保つことができます。
この方法は、他者とのつながり感が不足しているときに役立ちますが、夜間や相談相手がいない場合でも、自分で取り組むことができるセルフケア法です。

一段上の土俵に上がる

ここまでは個人でできる対処法を挙げました。誹謗中傷は、1人に対して複数が一斉に傷つけるのが一般的です。まさに多勢に無勢の状態です。同じ土俵では太刀打ちできません。そこで、一段上の土俵に上がることです。具体的には、以下の2つです。
①あなた自身が、レベルアップをすること
②一段高いところから状況を俯瞰すること
①は、オリンピックなどのアスリートの場合、次回の競技や4年後のオリンピックに向けて集中することです。たとえ誹謗中傷の原因が、自分のミスや失敗に起因するのだとしても、原因に固執するのではなく、未来を見据えた方が、自分自身のレベルアップに繋がります。では、②の俯瞰する方法についてです。

◆一段高いところから俯瞰する
①落ち込んでいる場面を思い出してください。
②その時の自分の姿が見えたら、もう一人の自分がその姿を眺めます。
③その自分がどんどんと上空に昇っていく様子をイメージします。遠くには町並みや山々が見え、さらに上空に昇ると雲の上に到達します。
④そこで、太陽の温かさを感じながら、雲の上で好きなように過ごしてみましょう。
⑤雲の切れ間から下の様子を見ると、落ち込んでいる自分の姿が見えるかもしれません。しばらくその様子を観察してください。
⑥その後、徐々に下に戻り、最終的に自宅に戻ります。
このイメージトレーニングは、状況を俯瞰することで自分を客観的に見つめ、冷静さを取り戻す助けとなります。

相手の立場に立つには?

誹謗中傷が起きると、よく「相手の立場に立って物事を考えることが必要」という意見が出されます。しかし、それだけではピンとこない人(特に加害者側)も多いのではないでしょうか?誹謗中傷の要因として、「事実と解釈の混同」を前編で指摘しました。この場合、相手の起こした事実に対して、自分の思い込みによる解釈が加わっています。従って、自他の境界線の不明瞭さが、この混同を引き起こす原因となります。そこで、境界線を明確にし、相手の気持ちに気づけるワークを紹介します。

自分と他者の境界線ゲーム
①4~5メートル程度の紐を2本用意し、それぞれ円を作ります。
②1つの円は自分自身の領域(サークルA)、もう1つは相手の領域(サークルB)を表します。
③サークルAに入り、サークルBを眺めながら、相手の姿をイメージします。
④次にサークルBに移動し、相手の立場になりきってみましょう。
⑤再度サークルAに戻り、Bの相手に対してどのような言葉をかけるか考え、実際に声に出してみます。
⑥この手順を数回繰り返すことで、相手の立場に立って考える感覚を養います。
このワークは、自分と他者の境界線を明確にし、相手の気持ちに気づく力を養うためのものです。実際に体感することで、相手への理解を深める効果があります。

さいごに

誹謗中傷に対する対策をいくつかご紹介しましたが、これらは心の安定を保つための一つの手段です。これらの方法は、個々の状況に応じて役立つことも多いでしょう。しかし、誹謗中傷は個人だけでは解決が難しい社会的な問題でもあります。私たちができることには限界がありますが、一人ひとりが意識を高め、実践することで、少しずつ変化をもたらすことができるかもしれません。それでも、社会全体で誹謗中傷に対する理解と対策を進めることが重要です。
この記事を通じて、皆さんが自分自身を守り、また他者への理解を深めるきっかけとなれば幸いです。誹謗中傷に対する社会の意識が少しでも変わり、より健全なコミュニケーションが広がることを願っています。

〈執筆〉
一般社団法人インナークリエイティブセラピスト協会
代表理事 佐藤城人
https://in-ct.org/

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