作家池田あきこによる人気キャラクター、猫のダヤン。子供のころから親しんだ方も多いのではないでしょうか。今回は、猫のダヤンの生みの親、絵本作家池田あきこさんに、ダヤンの誕生秘話やファンの方へのメッセージを伺いました。
猫のダヤンはどのような経緯で誕生したのですか?
1976年、23歳のときに母と始めた革工房が「わちふぃーるど」として世に出ました。工房は埼玉の鶴瀬にありましたが、都心のかっこいい場所に拠点を作りたいと思い、自由が丘に店をオープン。その際にシンボルマークとして誕生したのが、うちの猫の名前でもある「ダヤン」です。
店内にはダヤンのほか、イワンやマーシィをデザインした包装紙を用意し、ジタンやマープルマフの椅子を並べ、丸テーブルを囲んだ空間はまるで動物会議のような雰囲気でした。不思議な魅力のある店で、包装紙を求めるお客様も多く、革製品以外の商品づくりも始めることに。
中でも転機となったのが、ダヤンのポスターです。初めてパステルで描いたB1サイズのポスターは、暗い背景にダヤンが浮かび上がるデザイン。壁に何枚も貼ると大きなインパクトがあり、「こわい!」「かわいい」「気持ち悪い」と、店に入った人々の心を揺さぶりました。
「この猫は強い!」と確信し、それまで革人形で表現しようと考えていた「わちふぃーるど」の不思議な世界に、ダヤンを主人公として送り込むことを決意。『ダヤンのおいしいゆめ』という物語のコンテを作り、出版社に売り込んだのをきっかけに、今もさまざまな形でダヤンと「わちふぃーるど」の世界を創り続けています。

40年間描き続ける中で、創作の原動力になっているものは何ですか?
私の創作の原動力は旅です。何かを作っていないと飢餓感を覚えるほどの性分で、20代の頃は創作の苦しさに悩んでいました。頭の中にある架空の世界を革人形だけでは表現しきれず、もどかしさを感じていたのです。ですが、ダヤンが生まれたことで「わちふぃーるど」の世界を創ることが格段に楽になりました。
「わちふぃーるど」は、幼い頃に読んだグリム童話やラングの色の童話集の影響が強く、キリスト教が入る以前の西洋農耕民族の暮らしをイメージして作っています。しかし、都市部を中心に世界はどんどん均一化してきています。
そんな中、アニメの仕事で訪れた北極で驚きました。現地の若者たちはハンバーガーを食べ、スーパーマリオのゲームをし、夜になるとスノーモービルで無目的に走り回っていたのです。
そこで思いました。「まだ古いものが残っている国や街を旅して、『わちふぃーるど』を探そう!」と。そして、旅を仕事にするために出版社へ働きかけ、ダヤンのスケッチ本を出版することにしました。仕事になればこそ、思う存分旅を続けられますから。
旅先でのスケッチも、大切な創作の一部です。ダヤンのおかげで絵を描けるようになりましたが、独学の私にとってスケッチは良い修行にもなります。
旅とスケッチは、私の創作活動の大きな原動力であり、これからも「わちふぃーるど」の世界を広げていくための大きな楽しみです。
ダヤンの物語を通して、読者やファンに伝えたいことは何ですか?
私がダヤンの物語を通して伝えたいのは、「独自性の大切さ」です。人は誰でも違いがあり、その違いこそが個性であり、尊重すべきものだと考えています。
「わちふぃーるど」の住民たちも、それぞれ独特の個性を持っています。でも、個性というのは一言で表せるものではありません。初めの頃、ポスターのイメージから「ダヤンは笑わない猫」と言われることもありました。でも私は、ダヤンを動きのある存在にしたかったので、そんな固定したイメージにははめたくなかったのです。
絵本が増えるにつれ、「ダヤンってどんな性格ですか?」と聞かれることが多くなりました。その頃はまだはっきりしていませんでしたが、『トリポカの謎』という漫画仕立ての本のセリフを通して、次第にダヤンの性格が見えてきました。その後、ダヤンが「わちふぃーるど」の創生に関わる長編小説を書いたことで、今では彼の性格がはっきりしています。
ダヤンは、ちょっとまぬけで気のいい、面白い猫。渦に巻き込まれやすいけれど、太陽に近いあたたかさと強運を持っています。でも、こうした個性も、長く付き合わないと本当にはわからないものです。
だからこそ、「ちょっと変わった人」「付き合いにくい人」と決めつけず、いろんな人を面白がるような気持ちで接してもらえたら嬉しいです。
最後に、ダヤンのファンや商品を手に取る方々にメッセージをお願いします。
ダヤンが生まれて40年以上が経ちました。その間、私は本をはじめ、さまざまな創作物を生み出してきました。
「わちふぃーるど」は会社の名前でもあり、多くのスタッフが商品を企画し、革で制作し、管理し、お客様のもとへ届けています。創作のアイデアが形になり、皆さんの手に渡るまでを一貫して行う、珍しい会社です。私もスタッフも、「良いものを作りたい!」という思いがとても強く、クオリティとオリジナリティを大切にしながら、どうすればもっと喜んでもらえるか、日々考えています。
40年の間に時代は大きく変わりましたが、時代に合わせながらも、わちふぃーるどらしさを大切にし、これからも明るく頑張っていきます。
最近は、YouTubeで「池田あきこチャンネル」も作りました。ぜひ、これからも「わちふぃーるど」を見守っていてください。そして、本を読んだり、展覧会に来たり、商品を手に取ったりして、応援していただけたら嬉しいです!

株式会社わちふぃーるど
絵本作家 池田あきこ
http://www.wachi.co.jp/
YouTube https://www.youtube.com/watch?v=NMi76S3cs3E